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ちょっと長めの独り言

虹、放て(宮野真生子/磯野真穂「急に具合が悪くなる」感想)

読みました。時々タイムラインで流れて来ていて気になってたんですけど、えいやで購入しました。

この数ヶ月、身内が亡くなり、祖父や弟が救急搬送されるなど、死について考えることが多かった。で、ここのところのコロナ騒ぎで、新型コロナの死亡率は高くないだとか、日本の自殺者数とか、餅の方が人を殺してるだとか、なんというか人間の生の中に死が包括されていることについてしみじみと身に染みて感じたので、もうこれはこの本の読みどきだなって思って購入に踏み切りました。
あと先日100日後に死ぬワニが100日目を迎えたんですよね。なんというか、そういう時期なのかもしれない。


私はもともと「筆者が亡くなる直前に書き上げた作品が好き」という最悪な嗜好の持ち主なんですけど、なんでかというと、作者にとって最後の魂の置き所となったのがその作品だったというのが感じられるから。そんな本、圧倒的に面白いに決まっていて、この本も裏切られずとても面白かった。宮野さんがもういないこと、「本当にもったいないな」と思う。言葉は不謹慎かもしれないけど。この人の残した言葉はこの本のとおり素晴らしいものだけど、宮野さんの言葉でもう新しく紡がれることがないのかと思うと、とてももったいない。

対話形式の本が好き。筆者の述べたことに対して、ひっかかることがあったとしても随筆とかではそのまま読み進めちゃう。そして、読み終わる頃にはどこに引っかかったのか忘れている。この往復書簡形式では、私が引っかかったところを次の人が取り上げてくれて、私より遥かに明晰な言葉で言語化してくれる。私の場合は「母が『先生の娘だったらどうしますか』と医師に言ったことについて」が引っかかりポイントだった。私の曖昧な引っかかりポイントは、磯野さんの正しくて優しい言葉に言語化され、その言葉に対して、また宮野さんの真摯な言葉が帰ってくる。2人の対話はとても心地よかった。

なんか最近涙腺が緩いので、2ページ目くらいの著者紹介の見開きでもう泣いてしまうんですよね。すごくないこの紹介ページ。2人の優しさとユーモアが溢れてて、私はもう宮野さんが亡くなっていることを知っているので、これから2人に訪れる出来事に思いを馳せて泣いてしまう。

あと私は米原万里さんが代替医療を選択していたことに大変ショックを受けた人なので、宮野さんの話は納得できた。弱い運命論に囲まれて、選択に疲れちゃった人達は、強い言葉で断定してくれる方を選択してしまう、そういうこともあるのかもしれない。標準医療でできることをやり尽くした人が、ゼロではない可能性にかけて、選んでしまうこともあるのかもしれない。
結局ポジトークじゃないけど、人間の判断って自分の置かれた状況によって左右されてしまうものなのかもしれない。かもしれないっていうかそういうものだよね。

は〜、今は新型コロナやオリンピック延期の話題ばっかりで気が滅入るじゃないですか。この本は曖昧な不安や深い悲しさを切り分けて、知性と優しさで言葉を紡いでいく本だった。とても良かったです。