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ちょっと長めの独り言

西へ、西へ(小川哲「嘘と正典」感想)

読みました。以下感想です。
特にネタバレ配慮してません。






最近、図書館の「最近返された本」棚にハマっている。この本もそこから借りた。
「最近返された本」棚は話題になってる本が並んでいることが多くて、「嘘と正典」も「なんかタイトル聞いたことあるかも〜」って思って借りてきた。
この前読んだ「平成くん、さようなら」もそうなんだけど、タイトルだけ知ってるような作品って、作者がどんな作品を書くのか知らないので新鮮な驚きがある。この本も短編集なんだけど「魔術師」を読んだあと、「え?」ってなって、もしかして短編同士の世界が繋がっていて、最後まで読み終えると全ての謎が解ける系の短編集か?って思っていた。(全然違った。)

私は「嘘と正典」が1番好きであった。というか私は筆者の選ぶ題材が好きなんだよなあ。過去にメッセージを送る技術が開発され、各国は過去改編に躍起になった世界。「正しい」歴史を残そうとする有志達にとって、歴史の礎となるのはマルクス主義の母であるエンゲルス…。
いやあらすじ下手すぎか?

まあ世界の未来の有志たちが一丸となってエンゲルスを守ろうとする話なんですけど、私はめちゃめちゃ好きだったんですよね。題材が好きだ。
アメリカ人のホワイト視点なのも憎いじゃないですか。ホワイトがあの場面で、そう思うのは私たち読者にとってすごくすんなりと受け入れられるわけですよ。若いホワイトくんかわいそうだな。

あと「ゴールデンレコード」の話もとても好きだった。本読んだあとすぐ「平均律クラヴィーア」YouTubeで検索しちゃった。めちゃめちゃ厨2心をくすぐりません? 真っ暗な遠い宇宙を、会えるかどうか分からない相手に宛てて飛んでいく、人間からのメッセージが録音されたレコード。いや本当にそういうレコードに音楽が録音されてるのってなんかほんと…いいよね…

話は戻るんですけど、魔術師みたいな短編はそんなに好きではなく、何となく「あとはご想像にお任せします!」って作者に突き放されたような気持ちになる。なんかもやってしまう。偽物なら偽物でどんな風に跡形もなく消えたのか教えてほしい。

馬の話も好き。圧倒的筆力。読ませる。

時の扉、タイムパラドックス的なやつ。好きです。アラサー世代オタクには馴染み深いよね?

音楽の話も好き。魔笛も聞かなきゃ。

ミニマルに生きよう!の話は星新一っぽさを感じた。

この作者は本当に筆力!リーダビリティ!って感じ。また機会があれば手に取りたい。
とにかくゴールデンレコードの概念に出会えてよかった。