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ちょっと長めの独り言

エンドレス・エイト(ガルシア・マルケス「予告された殺人の記録」感想)

聞いてほしい。ガルシア・マルケス「予告された殺人の記録」めちゃめちゃ面白かった。

私、ガルシア・マルケスの作品人生ナンバーワンじゃないかっていうくらい好きなんですよ。だからこの小説も期待値MAXくらいで読み始めたんですけど、中盤までは「思ったほど面白くないな…」って思ってたんですけど、最後!殺人の場面は引っ張って引っ張ってラストに記述されるんですけど、それがカタルシスを感じさせて、パズルのピースがはまりこむ感じで、もう本当の本当に最高だった。ガルシア・マルケスさん信じてよかった。ありがとう。

この小説は私が大好きマジックレアリズム的な部分とか幻想的な部分があんまりないな〜と思ってたんですけど、最後、自分の身体からはみ出た腸についた泥を払って、自分の家の台所に歩いていくサンティアゴ・ナサールが最高だった。

あとね、バヤルド・サン・ロマンとアンヘラ・ビカリオも最高なんですよ。結局2人は再会してこれからのストーリーを予感させるんですけど、あのまま一生会わないのでもエモくてよかったなと思う。そして再会したからには幸せになれよ!

は〜ガルシア・マルケス、早くFGOに実装してほしい。そして青い血を流したり突然亀になったりしてほしい…。

たどりつく(横浜美術館ヌード展感想)

横浜美術館で開催中のヌード展。行ってきました。最高でした。めちゃめちゃ最高でした。


・びっくりするほど豪華な作品群。あまり美術に詳しくない私でも知っている名前がごろごろ。コスパが良い。
・何が最高かってそんなに混んでないんですよ。ルーブル展のような混み具合を覚悟して言ったんですけど、人が!そんなに!いない!!!なんで!?!?と思ったけど観賞する側としてはめちゃめちゃ嬉しいことでした。ゆっくり見れる。立ち止まっても押されない。一部屋あたり2~3周していた。
・そこまで人が入ってないように見えたのでお布施の気持ちも込めて公式図録買いました。ありがとう横浜美術館。またこういう展示お願いします。図録めちゃめちゃ面白かったよ。
・やっぱりなんといってもロダン「接吻」ですよね…。なめらかで吸い付くようだったよ。あれがエロすぎ扱いされてカバーかけられてたのもわかる。なんかこう…見てると興奮を催すよね…。
ターナーはちょっと、なんかこう、いたたまれないというか見てはいけないものを見てしまっているのではないかという気持ちが拭えなくて、あまりにターナーのプライベートな領域に踏み込んでしまった気がして大丈夫?これ見ても大丈夫なやつ???っても思いながらガン見してた。前に手塚治虫のエロいフェチ絵が出てきた時も似たような気持ちになったんだけど、ターナーだもんね。ターナー支持者がいくつかの写真を処分した気持ち、わからないでもない。ヌード展ではこのターナーの絵が1番エロいと思いました。
ドガ好き。みんな大好き印象派
・ボナール、今まであまり興味がなかったんだけど、今回展示されていた絵、めちゃめちゃ好きだった。柔らかい色使いの、親密な絵。
・人気があったのは、やっぱりロダンの部屋の作品群。あとはシュルレアリスムの部屋。眠るヴィーナスの周りに人だかりができてた。
・現代の美術全然知らないんだけど作家さん沢山知れて楽しかった。フランシス・ベーコンは(思想家…?)って思いながら見てた無知さなので。
・本企画展で、初めて知って好きになったのはアルベルト・ジャコメッティさん。好き。

格差社会(ダン・ブラウン「ロスト・シンボル」感想、ロバート・フランク「成功は偶然を味方にする」感想)

ダン・ブラウン「ロスト・シンボル」下巻も読み終わりました。面白かったー!
以下めっちゃネタバレです。


マラークの正体は、正直すぐ分かってしまった。上巻の彼のエピソード出た時点でめっちゃわかる。
でも、正体がわかっててもすごく楽しめた。ダン・ブラウン、父と息子の話がきっと好きなんだろうなー。

あとね、マラークのせいで迎える「アメリカの危機」、多分隠された超危険な兵器が起動されてしまう…!とかだと思ってたら全然違って、俗っぽくてめっちゃ感情移入してしまった。その動画をYouTubeにアップロードされるのを必死で阻止しようとするサトウの気持ちめちゃめちゃわかる。

主人公補正なのは分かるけどトリッシュが死ぬのにロバートが死なないのは卑怯では…。トリッシュも救ってくれ。



引き続き、ロバート・フランク「成功する人は偶然を味方にする」感想。こちらは期待したほど面白くなかった。
一言で言うと、「成功した人のなかで運が悪かった人はいない」「公共投資をもっとするべき」ということが書かれている。
で、その説明としてずらずら〜っと具体例などが並べてある。237ページ。途中で飽きちゃった。
この本を自己啓発本として読むなら、「夢を叶えるゾウ」を読んだ方が早いかも。同じようなことが書いてある。
累進消費税の話は面白かった。あと私たちは自分の能力を平均以上だと認識する傾向にあるという話も。どこかで聞いたことがあるなと思ったらレヴィ=ストロースサルトルを批判した時の文脈ですね。

異邦人(ダン・ブラウン「ロスト・シンボル」上巻感想)

ダン・ブラウン「ロスト・シンボル」読んでる。上巻読み終わったところ。わりと上下巻読み終わったところで感想書くことが多いのだけど、気になったことがありましてですね。

先日、「天使と悪魔」を読み終わってたんですけど、「天使と悪魔」で一緒だったヴィットリアはどこに行ったんですかね? なんか、存在が消されてる感がある。でもバチカンでの一連の事件はあったことになってる。ヴィットリアの話は出てこない。怖い。

主人公の「友人」や「関係者」は、事件ごとに一新される。回想に出てくる学生たちは、ただ「学生」としての役割だけを負った、のっぺらぼうみたい。

主人公以外の登場人物は、ちゃんとその時代その場所で暮らしてきた歴史があるのに、主人公だけ切り取られてポイっとその世界に放り込まれたような異物感がある。あの奇妙な、世界に受け入れられていない感じ、気持ち悪くてすごくいいと思う。なんか文学的な感じがする。

全然本題と関係ないね。下巻も楽しみです。

剪定された歴史(内田樹「寝ながら学べる構造主義」感想)

内田樹「寝ながら学べる構造主義」読みました。面白かった。こういう「聞いたことあるけど具体的にどういう話なのかよくわかんない」というものを解説してくれる入門書大好き。

まず、構造主義とは何か。
・「世界の見え方」は時代、民族、文化に大きく依存しており、考世界の見え方」は人によって違う。(アフガン戦争について、アメリカ人が見る世界とアフガン人が見る世界は異なる。イスラム過激派とかもそうなんだと思う。)
私たちの判断や行動は、時代、地域、所属する社会集団に規定され、社会集団が無意識的に排除してしまっているものは私にも見ることが出来ない。

次に、構造主義が出来上がる土壌を作った人3人。人間の思考は何かしらに制限されると考えた。3人
マルクス(1818~1883)
人間は「どの階級に属するか」によってものの見え方がかわってくる。(構造主義の土壌の話からは離れるかもしれないけど、マルクスは人間の個別性は「何者であるか」ではなく「何事をなすか」で規定されると言っている。大切なのはあるがままの自分に満足することではなく命懸けの跳躍を試みて「自分がそうありたいと願うものになること」。 この思想はヘーゲルの人間学から、マルクス主義、実存を経由して構造主義にも含まれている。)

フロイト(1856~1939)
人間の考えや行動は「無意識」に制限されている。本人はその事を自覚しておらず、にも関わらず考え方を支配している。

ニーチェ(1844~1900)
私たちが自明のことと思っていることは、ある時代、ある地域における偏見である。
ニーチェはもともと古典文献学者としてスタートした。古典文献を読む時は、その時代の人間にならないといけない。なぜなら感受性や価値判断基準が異なるので。ニーチェの時代、人々は自分たちの価値観が人類普遍的なものだと考えており、ニーチェは「いかにして現代人はこんなにバカになったのか」というテーマを持つことになる。
「道徳はなんの役にたつのか?」はイギリスの哲学者たち(ホッブス(1588~1679)、ジョン・ロック(1632~1704)、ベンサム(1748~1832))に究明されてきた問いだが、彼ら功利主義は過去を究明し、ニーチェはこれからの社会を予見した。

で、構造主義の父。
ソシュール(1857~1913)
言語活動は「ものに名前をつける」ことではなく、星空を星座に分かつように、非定型の世界を切り分ける作業である。
私たちの考え方などは、言語に制限されている。感情も、言語化されていない感情は表現し得ない。
身体もそう。アメリカ人は「肩がこる」ことはない。似たような表現はアメリカでは「背中が痛む」という。日本人もアメリカ人も似たような場所が痛いはずだが、アメリカ人はその時間違いなく背中(back)が痛んでいる。

構造主義四銃士
フーコー(1926~1984)
彼の言ってる「歴史は正しい歴史を一直線上に現在に向かってきているのではなく、現在以外のあらゆる可能性が排除されていった結果である」っていうのはFGOプレイヤーならすんなりわかること、というか「何を今さらそんなことを仰々しく述べているのか?」と思われるような気がするので、なるほど今ってポスト構造主義なのだなあと思った。構造主義の考え方が私たちに浸透している。
狂人は「何かわからないもの」から「何であるかわかった」ため社会から排除された。16世紀までは巫女や悪魔つきとして社会の構成員であった。

ロラン・バルト(1915~1980)
何も意味を有さないもの、空間を追い求めて、日本文化に理想を見出した。

レヴィ=ストロース
実存主義サルトルの覇権の時代を終わらせた人。
サルトルが「知識人たるものその時代に即した考えを持ち、進化していくべきだ」とカミュを批判したことに対し、「人間は自分たちの思想を過大評価する傾向にある。サルトルは『 この時代、この場所での(わたしの)思想が正しい』という考え方に基づきカミュを批判しているが、それは未開人が自分たちの物差しで思想の正しさを判断することと同じである。どちらも野生の思考である。」とした。

ラカン
精神分析では、分析対象者が過去を思い出そうとして過去を捏造してしまう事があるが、精神分析上はその過去が実際正しいかどうかは問題ではなく、分析対象者が自らの過去を語った、ということが大事

ラカン精神分析として握手のみを行った場合も料金を徴収した。

レヴィ=ストロースの章のサルトルのエピソードが印象的すぎて、ラカンの説明が全然頭に入ってこなかった。
サルトル、プライド高そうだし、完全論破(?)されて意気消沈、人生転落とかになってたらどうしよう…と心配になってしまった。ちゃんと元気に余生を過ごしてくれていればいいんだけど。

道しるべ(木村泰司「西洋美術史」感想)

木村泰司「西洋美術史」読みました。面白かった。

読み物として面白いというより、この本を読んでから美術に触れるとより楽しい。
美術の地図として使える。作者だけを聞いて、「この人はどんな人だったかな?」となったら、この本の巻末の索引から調べるとよい。その人がいつ、どこで生まれ、その土地と時代が作品にどのような影響をもたらしたのかがわかる。ついでに他の画家とどのような関係であったかがわかることもある。

印象的だったのは「欧米では商談の場以外で価格の話をすることは品のない行為とされている」っていう記述。私は常々「絵の価格を公開すれば違った観点から絵を楽しめるのでは?絵に興味がない人も興味をもってくれるのでは?」と思ってたんですけど、そもそも発想が下品ということ…ですね…。

名前をよく聞く画家もたくさん出てきて嬉しい。
ベルニーニ…ダン・ブラウン「天使と悪魔」
レオナルド・ダ・ヴィンチFGO
ベラスケス…日曜美術館ジョジョの荒木さんが紹介
ゴッホフェルメール…推し画家

推し画家、シニャックシスレーエル・グレコも好きなんですけど出てこなかったよね?スーラは見かけた。

とっても面白かったし、今後は辞書的に活用したいです。

霧を払う手(佐藤優「ゼロからわかる『世界の読み方』」感想)

ゼロからわかる「世界の読み方」、面白かった。この著者の本はいつもとても勉強になる。

・なぜ金正男はあのような形で殺されたのか。もっと目立たずに殺すことも出来たのに。
あの殺し方はメッセージだった。北朝鮮の、金正日金日成の血統の人々への。今までは彼らは「正しい血統」として殺されることはまずなかった。けれどこれからは、君たちもこうなるんだよっていう金正恩からのメッセージだった。
金正男はなぜ殺されたのか。もしアメリカが金正恩を殺した場合、次の政権のトップにだれを据えるか。おそらく金正男になる。それもあって金正男をあんな形で殺した。
・業界では「殺す」という単語を使わず「中立化する」というらしい。金正男は中立化された。
トランプ大統領カルヴァン派。「自分には生まれた時から課された使命がある」という考え方。
・クォーター化の原則。4分の1しか知ってることを話さない。
麻原彰晃は「間違った考えをしている人間は魂が汚れる。魂が汚れたら復活の時に蘇られない。だから、まだ汚れの少ない今のうちに人々を殺した方が人々の救済に繋がる」と考え、地下鉄サリン事件を起こした。似た考え方をしていたのがルター。農民反乱を起こした人間は、魂が汚れつつあるので、今のうちに殺してあげた方が汚れが限定的なので復活出来る可能性がある。だから今すぐ全員殺してあげよう。ルターめっちゃ怖くない??? 良かれと思ってやってる感、余計怖い。
ロシア正教には「聖人は腐らない」という考えがある。モスクワの赤の広場にはレーニンのミイラがある。スターリンのもあったけど撤去された。「カラマーゾフの兄弟」ではゾシマ長老の死体から腐臭がして、アリョーシャがショックを受けるのはそのせい。
オバマの外交は帝国主義であった。相手の立場を考えずに自国の利益を最大限に優先することを要求し、反発がなければそのまま実施、猛反発されればほどほどのところで引っ込める。
・日本の政権交代フランス革命に似ている。貧しさから革命を起こし王様の首を切って(民主党が政権を取って)、富の再分配をさせた。でもジロンド派(民主党)には生産の思想がないから、インフレ政策を取ったりしたが国民を満足させられなかった。そこで政権をとったのがロベスピエールジャコバン派(自民党)。国民の生活を厳しく緊縮財政にして、秘密警察が取り締まる。安倍政権も共謀罪集団的自衛権など、社会の引き締めに入っている。ちなみにフランスはこのあとジャコバン派にも国民の反発が高まり、ナポレオンが登場。
ちなみにロシア革命ロールモデルフランス革命で、かなり似た感じで推移した。革命後は多くの自由主義者が政府入りし(ジロンド派)、その後彼らを締め上げて左翼的な政権を作るボリシェヴィキ革命が起きた(ジャコバン派)。そして最後にスターリンが粛清で権力掌握(ナポレオン)。
パレート最適:幸せ度を増やすためには他の誰かの幸せ度を下げないといけない状態。
ナッシュ均衡:相手が戦争、平和維持どちらを選ぶかわからない状態だと戦争を選ぶのが最善手になってしまう。(忘備録。本の内容とはあんまり関係ない。)
カルヴァン派に「毒麦のたとえ」がある。毒麦は成長し切ってから抜かないとダメ。これが多分、トランプの対シリアの考えに影響している。ロシアがシリアでアサド政権側について50万人くらい殺しているけど、500万人くらいが許容範囲だとトランプは考えているんじゃないか。(とんでもない話をしてる…)

いやあとっても面白かったです。大満足。