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ちょっと長めの独り言

花束を君に(古市憲寿「平成くん、さようなら」感想)

みなさん、読みました? 「平成くん、さようなら」。私は読んだ。王様のブランチか何かで紹介されてたと思う。とてもとてもよかった。
以下感想です。

あっめちゃめちゃネタバレしてます。
昭和終わり~平成はじめ頃に生まれたアラサーの皆さんはぜひネタバレ見る前に読んでほしい。面白いです。








私、この本の作者の人、なんかいけ好かないなって思ってて。ちょっと斜に構えた感じ。ちょっと社会のことを小馬鹿にしたようなイメージがあって、何となく好きになれなかった。
王様のブランチでこの本が紹介されてたのは覚えていて。図書館にWordの参考書借りに行ったら返却棚にたまたまこの本が並んでたんですよね。
読んでみたら、字が大きくて読みやすい。あとUberとかGoogleHOMEとか若者が好きそうなオシャレワードとかが並んでて、あと冒頭からセックストイの話をしていて、「あっこれは若者が書いた村上春樹風小説っぽいな〜、めっちゃオシャレ感漂ってるもんな〜」って思ってました。

読後。
こんなに優しい着地点にするなんて全然思ってなくて、あんまりにも優しいラストで胸がグッとなってしまった。電車の中でめっちゃ目がうるうるしていた。

私、間違いなく平成くんは死を選ぶんだとおもっていたんですよね。そういう物語なんだと思っていた。安楽死テーマパークに入っていく平成くんとバイバイして終わり。でも違っていた。
何が優しいのか、うまく言葉で説明できない。でも読後の感想は間違いなく「なんて優しいんだろう」だった。

この本が誰に向けて書かれたものかは分からないんだけど、平成くんたちと同世代のアラサーの皆さんは、ストーリーを別にしてもめっちゃ読んでて楽しいと思う。共感ポイントというか、「私もこれ好き!」っていうのが散りばめられている。私はファッション疎いのでぜんぜん分からなかったんだけど、FGOの宝具マのマーリンが出てきて笑った。

私たちのための小説だと思った。ドライなサトリ世代でも、結局感情的な繋がりとか、思いやりみたいなものも求めているっていう話。違うかな。違うな。平成くんがそういう人だったっていう話だ。

平成くんがGoogleHOME平成くん版を作ってきた時、そんな形の思いやりってあるんだ…って驚愕した。間違いなく愛ちゃんのために自分が何が出来るか考えてくれて、愛ちゃんのために作ったんだもんな。そして、平成くんが愛ちゃんと繋がるためのツールでもあったんだもんな。平成くんの変人みが溢れ出てて好き。

理知的に見えて、食べ物の好き嫌いが多くて、でも嫌いな食べ物を食べない説明をする時は栄養素が不要とかとても理性的に説明しようとする平成くん。でも単に食べたくないだけな平成くん。平成くん可愛すぎか? もしかして攻略対象の心の傷を癒していくタイプのルート固定型乙女ゲーなのか? って思うくらい平成くんのことが好きになってしまう小説だった。あんなに理性的に生きているふりをしながら、冷凍ブルーベリーはメディアの影響で食べてるし、ミライを安楽死させて愛ちゃんとの関係が微妙になると困った顔でスイーツを買ってくるようになるし。結婚制度の無意味さを説きながら、「愛ちゃんと結婚して、子供なんか全然好きじゃないけど、子供を作って、一緒に育てたら楽しいだろうなって、そんな平凡極まりない未来に憧れたりもしたんだよ」ってそんなの泣いちゃうじゃん。いや真面目にGoogleHOMEは平成くんが一生懸命愛ちゃんのためを思って考えついたプレゼントで、世間の感覚とは大幅にズレているけど愛ちゃんはめちゃくちゃ嬉しかったと思うんですよ。

平成くんの死生観も分かる部分もある。アインシュタイン相対性理論を発見したのは26歳なんだね。知らんかった。30歳になったら、もう相対性理論のような、世界の礎に関わるような発見って出来ないって思ったのかもしれない。あと「目が見えなくなるから」っていう安楽死の理由に愛ちゃんがめちゃくちゃ怒ってるの面白かった。平成くんがその理由を隠そうとしていたことも。その理由を恥ずかしがっていることも。全然一般的な死にたい理由だと思うんですけどね。
愛ちゃんは、新海誠君の名は。は43歳だし、千と千尋の神隠し宮崎駿60歳の作品だって地の文で説明してくれて、読者に違う視点もあるんだよって伝えてくれる。きっと平成くんにも伝えてくれる。

あと、愛ちゃんのお母さん「右上4番と左上5番がない」って言ってて謎だったんだけど歯の話だったんだね。歯の審美に厳しいお金持ち女性、いそう。

平成くんが1人で行ってた最先端安楽死施設、いいな〜、有名クリエイターの傑作映像を見ながら気持ちよく死んでいける施設、本当にそういうのあったら、もしかしたら生きるのに希望が持てるのかもしれない、って思ってたんですけど、その後出てきた「ゲームなどにめいっぱい課金させて臓器売買でチャラにする」ビジネスモデル、ありそうすぎて怖くなった。めっちゃありそうじゃない?

アラサー世代、「こういうのあるある」みたいな視点でも楽しめるし、「うちらの世代、外からこんな風に思われてるんだな」という気づきがあるし、とても面白かった。字が大きくて疲れ目の私たちに優しい。大変オススメです。