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ちょっと長めの独り言

罪と罰(市橋達也「逮捕されるまで」感想)

市橋達也「逮捕されるまで」読了。すごく面白かった。

読んだ人が「この主人公は自分だ」と思う人とそうでない人に分かれる、というのは太宰治人間失格」だっただろうか。
私はこの本の主人公は自分だと思いながら読んだ。主人公というか実在する人なのだけど。

自分が行った行為を受け止めることができず、現実から逃避するときばかり行動的。最後には変に楽観的な行動で捕まった。

主人公は、逃亡しながら本を読んでいた。ああ、私が警察から逃げることになってもきっと本を読むんだろうなと思って、妙に自分を重ねて読んでしまった。

山のなかで、寒さと空腹のなか幻覚を見ていた。動くネオンの看板。マッチ売りの少女は本当にあった話なのだ。少女は幻覚を見ていたのだ。

主人公は「罪と罰」も読んで買っていた。「罪を犯したのに、こんな風に救われていいのか」というのが主人公の感想だった。あなたはそんな風には救われない、と私は思った。

懸賞金をかけることの意味がよくわかっていなかったんだけど、この本を読んでわかった。逃亡者は西成にいる。そこにいる日雇労働の人たちは、懸賞金100万円のためならこぞって情報を提供するんだろう。

主人公は昔読んだ本に「お遍路を何周もすると死んだ人が生き返る」と書いてあったのを思いだし、四国へ渡ってお遍路を始めた。「そうすればリンゼイさんが生き返ると思った」と書かれていたけど、きっと本気では信じてなくて、ただなにもしないのがいたたまれなくて贖罪っぽいことをしてみたのではないかな。結局彼は一周もしないままお遍路を中断した。「ああ、贖罪っぽいことに飽きたのかな」と思って辛くなった。

主人公が時折口にするリンゼイさんへのお詫びの気持ち、あまりにも腹がたつし、そんなに軽く口にするのか、と思う。そう思う一方、彼は自分のこと第一で考えているから、その気持ちもわかるな、と主人公の行動を理解できる自分もこわい。