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ちょっと長めの独り言

花に嵐のたとえもあるぞ(米澤穂信「本と鍵の季節」感想)

読みました。以下感想です。

米澤穂信作品というだけで期待値高まってしまうのですが、期待を裏切らない面白さ。
思春期の少年ふたりの物語。米澤穂信が書く思春期の少年少女が本当に大好きなんだよ…。そしてその少女少女の関係がいつもエモ。今回の少年たちも、ほろ苦くて良かった。

米澤穂信が描く少年少女の世界はいつだってきらきらしていて、ありふれているのにその時間が二度と戻らないものだってことを強く感じさせる。エモ。少年たちは日常の中の謎を解いていくけど、謎を解いた結果、みんなが笑顔になるハッピーな真実は用意されていない。真相を知った読者たちは少し傷つく。でも完璧な悪人もいなくて、「そういう事もあるよね」と思ってしまうような、下手をすれば自分たちだってなり得てしまうような犯人像。

期待を裏切らない米澤ワールドです。とりあえず、米澤穂信ファンなら読んで損はないと思います。

転がり転がる(台湾旅行感想)

台湾行ってまいりました。楽しかったなあ。忘備録として記録に残しておく。

・台湾は3回目だけど、3泊4日で過去最長。ゆっくりできてよい。
・とにかく全てのご飯が美味しい。台湾ってすごい。特にスープ類の美味しさよ。
・スープでいうと九份で食べた魚介団子のスープと、寧夏夜市で飲んだ謎の牛肉スープが最高に美味しかった。
・あとホテルがめちゃめちゃよかったんですよね。フロントの人に色々聞いたりしてたんですけど、日本語勉強中らしくて、怪しげな日本語で受け答えしてくれたあと、隣にいる同僚に不安げに流暢な中国語で確認してくれてて…。ありがとう…。隣にいる同僚は日本語ペラペラなんだけど多分彼の勉強のために彼に対応させてて…いい職場…。
・下水湯っていうものをめちゃめちゃ飲んで見たかったんですけど夜市をうろうろするも出会えず。これだけが心残り。
・食べたのは朝ごはんの豆乳スープ(死ぬほどおなかいっぱいになった)、お粥、カラスミ入り揚げ団子、牡蠣のオムレツ、胡椒餅愛玉かき氷、牛肉麺ビーフンスープ、肉団子スープ、臭豆腐(めちゃめちゃ美味しい!)、スペアリブスープ、フルーツジュース、小籠包などなど。滞在時間が2日+1晩だったのでよく食べたよなってなる。
・今回お友達と行ったんだけど、友達の徳が高くて感動した。私ナビ下手すぎ+ワガママすぎるんですけど、それに付き合ってくれるお友達まじで仏…ってなった。
・あと旅行は予習が全てだと痛感した。今回私の下調べ全然足りなかったな…。もっと勉強していくべきであった。。。つら。。。
・あと現地の人、日本語ができる人も多いけど中国語しか喋れない人もたくさんおられて、中国語喋れるようになりたいなってなった。
・今回初めて行って最高だったのが進化街(変換できない)! なんか怪しげな漢方の匂いのするお店がズラっと並んでて、見たことのない調味料が売ってて、食べ方の分からない食材が置いてあって最高の最高だった。時間の都合で心ゆくまで満喫できなかったから、次回もう1回行きたい〜!!
・お友達が中山駅周辺で鉄観音?というお店でパイナップル緑茶を飲んだんですけど、これが本当に美味しかった…!私はここでフルーツジュースをたのんだんですけど、次回は絶対このパイナップル緑茶を飲む。必ず。
・レストランとかで何気なく出されるお茶が全て美味しい。すごい。

愛の最果て(亀山郁夫「『悪霊』神になりたかった男」感想)

読みました。こちらもまた米原万里の書評シリーズ。亀山郁夫ドストエフスキー「悪霊」を題材に学生へ授業をした際の書き起こし。本当にめちゃめちゃ面白かった…。
以下感想です。


ドストエフスキー「悪霊」は大学生のころに読んで「性格の悪い女が出てくるな〜!主人公胸くそ悪いヤツだな〜!最高!」みたいな感想だったんですけど、今回この本では「悪霊」の中の「告白」について取り上げている。特にマトリョーシャとスタヴローギンの関係について力を入れて解説されている。
昔の名作系の小説って自分一人の力では読みとけない部分も多いよね。私はこの亀山郁夫の解説を読んで、今まで「悪霊」の表面しかなぞることが出来ていなかったんだなと思った。

まず、冒頭で「告白」の章の抜粋。これがとてもありがたくて、その後の亀山郁夫の解説を読んで改めて本文を読み返すことが出来る。彼の解説により、初読では見えてなかった景色が見えてくる。ひとつの物語を、亀山郁夫に教えられた角度から見てみると、全然違う姿が見えてくるんですよ。なんか、そういうのって、すごくないですか。本、読んでてよかったな〜って思う瞬間。

ドストエフスキーは読者に求めることが多すぎると思う。普通に読んでも足の悪いマリヤがホーリーフール≒神様に近い者の象徴であり、神になりたいスタヴローギンにとってはライバルであるとか、スタヴローギンがマリヤの住む家に火をつけて焼死させることは神を殺すことに等しいとか、普通にストーリー追っててもわかんないんだよ!亀山郁夫の解説で初めてわかったよ!

特に最高だったのがさ〜、マトリョーシャとスタヴローギンの関係ですよ。普通に読んだらスタヴローギンが陵辱胸クソやろうじゃないですか。でも亀山郁夫は「この憎しみこそが愛である」って言うんですよね。マトリョーシャを殺したいとまで願う憎しみ、相手を殺すことが出来なければ、自分は生きられない。
その視点で「告白」を読むと、「夜、私は部屋にいて、彼女を憎むあまりに殺してしまおうと決意するほどだった。私の憎しみは主として彼女の微笑みを思い出す時に生じた。」とか「(彼女は)にぶい好奇心を浮かべて私を見つめていた。私はソファの端に腰掛けたまま身動きをせず、彼女を見返した。そこへ不意にまた憎しみを感じた。」とかが全然違う意味となって浮かび上がってくるんですよ。
「(彼女の幻影は)おのずから現れるというより、私自身が呼び起こすのだが、とても共に過ごすことができるはずもないのに、呼び起こさずにはすまないのだ。ああ、たとえ幻覚にでも、いつか彼女を現に見ることができたら。」「新しい犯罪を犯してみたいところで、何ら私をマトリョーシャから解き放ってはくれなかったろう。」とかさ…もうさ…。

スタヴローギンはマトリョーシャとの関係において、「神」ではいられなかったんですよね。性の現場で「神」であるためには、一方的な暴力と破壊か、徹底した無関心である必要があった。けれどスタヴローギンは、マトリョーシャに対してはそのどちらでもなく、「生身」の「一対一」の関係だった。一人の人間としての関係だった。

だから、私はマトリョーシャの「神様を殺してしまった」っていうのはスタヴローギンのことを指してると思ってたんですよね。「神」であったはずのスタヴローギンと、生身の関係を結んでしまった。彼を地上の世界に引きずり下ろしてしまった。
亀山郁夫の解釈は違っているんですけど、私はこっちを推したい…。

スタヴローギンは最後、首を吊って死ぬんですけど、マトリョーシャと同じ死に方を選んだんですよね。聖母の大地に触れることなく、狭くて急な階段を上がった先にある屋根裏部屋で死んだ、その意味。
スタヴローギンとマトリョーシャが天国で幸せな再会をしているとはとてもじゃないけど思えない。でも、マトリョーシャにとってスタヴローギンが特別であったのと同じように、スタヴローギンにとってマトリョーシャは唯一の存在であったのだろうと思うんですよ。
それ、世間では「運命の人」って呼ぶんじゃないでしょうか。


亀山郁夫は高校生向けの授業でこのテーマ選んだのすごくないですか。少女陵辱、被害者の自殺、ルソー「告白」から引っ張ってきた自慰表現、マトリョーシャのM体質について。高校生、どんな顔でこの授業聞いていたんだろうな…。
最後の911の自身の体験も、ここまで赤裸々に高校生に語れるのすごいと思う。

とにかくめちゃめちゃ面白かった。「『悪霊』面白くなかったわ〜」って人に特におすすめしたい。

アイリーンはさみしがり(映画「ギフテッド」感想)

見ました映画ギフテッド。
以下ネタバレ配慮なしの感想です。





なんか期待したほど面白くなかった…。
多分相性が良くなかっただけな気もする。
メアリーを演じた子役の子はとても良かった。里親のお家に預けられて号泣してるメアリー、可哀想だしかわいいしこっちまで泣けてくるっていう。

最後のおばあちゃん悲しすぎるやろ。フランクが「でもその教育は結果として正しかったと思う」ってすごく空虚に響いた。でもああいった教育をしてきたおばあちゃんなら喜ばしい気持ちもあったんだろうな。

なんだかあんまり心に刺さらなくて書くことが無いな。やっぱり期待値コントロール大事。全然悪くないシナリオだと思うんだけど、期待しすぎた。
今度見る映画は期待せずに見よう!!

湿度と熱帯夜(今村昌弘「屍人荘の殺人」感想)

ずっと読みたかったこのミス1位作品「屍人荘の殺人」。偶然図書館で借りられました。珍しく借りてから3時間くらいで一気に読了。以下感想です。






・ミステリ系は極力読むまでに事前情報見ないように気をつけてるんだけど、私これまでよくネタバレ踏まずに読み始められたなと感動しました。ミステリ界隈のネタバレ管理すごいよ。
・幸い全く事前情報なしで読み始められたので、ストーリーが怒涛の展開を見せ始めたあたりからめちゃめちゃテンション上がりました。
・大学生の夏休みでペンション滞在とか、巻初の館内部屋割りの表示とか、古き良きミステリ感漂ってる。あとラストの謎解き部分もミステリ好きに向けたブラフとかもあって、なんというかミステリ好きな人ならより楽しめるような作品になっているのでは。
・個人的に、氷菓シリーズのように主人公側3人の青春悲喜こもごもを期待していたんですけど、途中で諦めました。いやでも結果的にはあったんですけど。けど。はい。。
・謎解きも状況設定を上手く使ったもので、なるほどこのミス1位になるのもわかる!!って思いました。作中で「ミステリのトリックネタはアイディア切れ状態であり、最近の流行りはいくつかのトリックを組み合わせること」って書いてあって、なるほどなあと。

大変面白かったです。読者が一緒に考えることができる系ミステリ。ぜひ!オススメ!

ミルクレープは寂しい鏡(村上世彰「いま君に伝えたいお金の話」感想)

村上ファンドの村上さんが書いた、おそらく子度向けと思われるお金についての本。とても面白かった。
Twitterでたらればさんが感想文書くの苦手な子のためのアドバイスとして「その本の中で好きなセリフなどを書き写す」っていうのを提案されてたので、本日はその方式で。(多分、読書感想文を書けない小学生へのアドバイスだと思われるけど…私の国語力も小学生レベルなので…。)

・お金はさみしがりや
・お金の流れを止めてはいけない。稼いで貯めて、回して増やす。
・物々交換をより便利にするためにお金ができた。お金は便利な道具。
・日本人の家庭で所有するお金の合計は1800兆円。みんな半分以上銀行に貯金。海外だと投資が主流。
・お金は稼いで貯めて、回して増やす。
・食事代あてゲーム楽しそうだな。やりたい。
・なんでもいいから夢中になる。どんな仕事であれ、集中してやれば面白くなる、集中している時というのはその人の能力が最大限発揮されるとき。
・仕事を通じて自分のミッションを見つけられるか。
・なぜ学校の勉強をやらないといけないのか。何かに夢中になって学ぶ体験が大事。学校の勉強ほどあらゆる世界の入り口となっているものは無い。
・七並べの戦略性について。そんな観点で七並べしたことなかったよ…。パスは3回まで、相手をドボンさせると勝ち。大人が飲みながらやっても楽しそうだよね。こういうボードゲームみたいなの好き。
・借金はダメ。特に私は本当にダメだわ。奨学金は借りない!信用取引もしない!

まあまあ面白かった!子供にお金の勉強させたい場合これ1冊渡してあげれば足りるのでは?

ソーダ・ゼリーの暑い夏(奥田英朗「イン・ザ・プール」感想)

またしても米原万里シリーズ。奥田英朗イン・ザ・プール」。
米原万里さんは声を出して笑い転げたそう。
以下感想です。

一瞬で読める。「ジェノサイド」はドキドキ感、ハラハラ感でページめくる手が止まらない感じだったけど、こちらは圧倒的読み易さ。読み進める時の抵抗が全くない。スルスル読める感。

好きだったのは最後の短編、火事が心配で家から出れない男の本。なんだか民話とか伝承かな?って感じのオチのついたストーリー。ハッピーエンドっていいよね。
あとメールが止められない男子高校生の話、「メール一通3円」とか書いてあって、そうだよな〜そんな時代もあったよな〜とか思った。懐かしいな。そして元ネクラで誰からも重視されてない男子高校生、身に染みる。ネクラがキャラ変しようとするとこういう事態に陥る。

面白かったんだけど、声を上げて大爆笑!とまではいかなくて残念。でもこういう話好きな人は沢山いるだろうと思う。人間のマイナスの側面を、皮肉とたっぷりのユーモアを交えて書かれた短編集。